H西洋銀座のタサキが世界のTASAKI になった頃、雨後の筍のように 『ワイン本』が出版されました。
家付きのカーヴ・葡萄舎を建てている私の最大の関心事は 「ワインの保管条件」 でした。
どのワイン本にも、例外なく共通していたのは、「高温、乾燥、光、振動、異臭に注意すべし」でした。

当たり前ですが、私が買うワインは瓶詰めです。素人考えで腑に落ちないのは、ガラス瓶に容れられ、
まともナコルクを打栓したワインに何故、乾燥と異臭が関わってくるのか、でした。
ワイン本は答えてくれません。釈然としないまま、建築は進みました。
道行く人々が 「この建物なんだろう」 とささやき始めた頃マット・クレイマーの本に出合いました。
カーヴの建造には間に合いませんでした。しかし ワインを管理していく上で私の指針となりました。今も。

もう一度確認しておきます。私が買って保管するワインは,、
ガラス瓶に容れられ、コルク栓を打ち込まれ、キャップシールのついた、フツーのワインです。
ガラスは熱・温度・光を通し、振動を伝えますが、空気は通しません。
キャップシールは素材も、形状も、締め付け具合も千差万別ですから、この際検証の対象外とします。
コルク栓の検証です。

これからはマット・クレイマーの本の要約になります。
葡萄舎を建ててから半年間、カーヴにせっせと水を撒きました
高い湿度を保つためです  愚かなことをしたものです

カーヴ考

 「旅のページ」 に、
「聖地巡礼」 と称してワインの銘醸地を訪問した旅の記録があります 併せててご覧ください
「聖地巡礼」 表紙 
ブルゴーニュ  ボルドー  ピエモンテ、トスカーナ

Vin Vino Wine

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カーヴ考
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ワイン界に聖書があるとすれば、まさしく、この本だ。私には。

個人的に私は、ワイン・メーカーとしてのサントリーを好きではありません。
そんなサントリーが、ワイン界に果たした功績が2つあります。
1つは、CH. ラグランジュの蘇生。
もう1つは、ニンニクと玉葱の実験。
この2つに限って、私はサントリーを高く評価します。
コルクが完全な密栓でないのは、
古酒の瓶からワインが減ってしまう、目減りの現象が生じることでわかる。
なぜワインは外に出られるのに、空気は中に入れないのか。
答えはコルクと瓶首の間を通過できる分子の大きさにある。
減ったのは水分なのだ。ワインの70〜80%は水分である。
水の分子は、年を経て弾力を失ったコルクの傍を、時間をかけてすり抜ける。
酸素分子の大きさは水のそれより倍近く大きい。
したがって、水分は出ていけても、酸素は入ってこれない。
エチルアルコールの分子も水の倍の大きさなので、これまた出るに出れない。
目減りしたワインのアルコール総含有量が若かった頃と変わらないのはこの理由による。
理想的なカーヴにはかなりの高湿度が必要、と一般に信じられている。
望ましいカーヴの湿度は70〜80%、というのが紋切り型の相場だ。
床に砂を敷き、水撒きをする話もよく聞く。 (無知で愚かな私もその信奉者でした)

長い間、カーヴ内の湿度が強調されてきた背景には、英仏の伝統的カーヴが高湿で、
ワインの保ちが良い、という事実が認められる。
それは、今世紀初頭まで、、ワインを4〜6年樽で寝かせてから瓶に詰めた風習の名残で、
木樽には何にも増して高い湿度が望ましい。
が、瓶詰めされたワインは、樽とはまったく別の環境下で生きていて、
そこには水分や湿った空気の入り込む余地はない。
ワインを保管する上で、冷蔵庫は “良くない” とする意見が大勢を占めています。
モーターの振動、扉の開閉による温度変化、etc.  ならば、野菜室は?
野菜室は野菜の匂いが移るから、要注意。ワイン本には例外なく記載されています。
本当にそうでしょうか。検証なさった方は?
サントリーの 「臭いの実験」  サントリーの、この実験だけは評価してやりたい!
実験した人たちがいます。サントリーの研究室のメンバーです。
実験の詳細と結果は 「サントリー・ワイン・ニュース」 に掲載されました。
トイレ芳香剤、ニンニク、玉葱、香りの強いものを発泡スチロールの箱に詰めて、
そこにワインを寝かせて密封し、数週間〜2ヵ月放置しました
結果は?  開封したとき、部屋中に悪臭・異臭が充満したそうです。
コルク栓でガードされたワインはどうだったでしょう。
芳香剤や、腐ったニンニク、玉葱の匂いがコルク栓を通ってワインに―――、
―――移るわけがないじゃありませんか! アホらしい。(失礼)
コルクを円柱形に切り出すと、無数の独立した細胞が切り口をあらわにする。
コルクを瓶口に打ち込んだとき、これらの細胞が超小型の吸着装置と化す。
コルクは1立方pあたり4000万の閉細胞から成る組織体で、
各細胞には緩衝材が詰まっている。
空気がコルクと瓶首の間に侵入できない理由である。
良質なコルクは瓶にとってほぼ完全な密閉状態を作る。
瓶を横に寝かせたとき、コルクの一端はワインと接し、濡れっぱなしになる。
側面はガラスに取り巻かれ、ぴったり密着している。
私のカーヴは、夏15℃、冬13℃に温度管理しているだけで、他にはほとんど配慮していません。
夏は除湿を怠りません。
建築直後、熟成棚(木製)に使用した接着剤の(と思われる)異臭がカーヴ内に立ち込めました。
換気扇を追加設置しましたが、それはワインのためではなく、私自身のためです。
M・クレイマーとサントリー研究グループのお陰で、湿度と異臭に無関心でいられたからです。

私のワインのボトルは、すべて袋詰、密封の状態です。
袋は、ポリプロピレンフィルムのクリスタルパック(ボルドー用、ブルゴーニュ用2種)を使用しています。
熟成棚に出し入れするとき、木枠でラベルが破損するのを防止するためです。

温度と光以外にも、湿度、振動、異臭、etc. etc..
ワイン管理上の「べからず集」 にのっとって、細心の注意を払っている方々に、どうこう言いません
ただ、ご苦労様、と申し上げるだけです。
あれこれ気を使っているほうが、非科学的なほうが、
いかにも 「ワインを保管している」 然、としていますから。
ところで、私は












瓶に打ち込んだコルクは事実上空気を遮断するから、空気中の湿度がどうであれ、
コルクの表層を湿らすのが関の山だ。しかもキャップシールをかいくぐって。
コルクがほぼ完璧な外気遮断効果をもたらすのは発泡性ワインが物語る。
バスのタイヤの内圧に匹敵する6気圧の炭酸ガスを瓶とコルクで閉じ込めるのだから。
コルクはまた、瓶内のワインも遮断する。
濡らしたコルクでさえ吸水性が無いのは周知のことだが、
コルクとワインが接するほんの僅かな部分にしかワインがしみこんでいないのは
抜栓のときに毎度経験していることだ。
家庭用カーヴに湿気などお呼びでない。
それどころか、湿気はカビや菌類の成長に拍車をかけ、
ラベルを台無しにするだけである。



彼の本を読んだときの「我が意を得たり」という私の表情をご想像ください。
「へなちょこワイン本め! いい加減なことを書きやがって!」と
鬼の首を取ったような気持ちでした。

私のワイン管理のチェックリストから、
「乾燥」
の2文字が消えました


高湿度を保たなくても良い、ということは、とても気が楽になります。
カーヴの玉砂利・敷石に、せっせと水をまいた自分がアホラシクなります。
ホント。



















マット・クレイマーの結論
  ワインカーヴの適性条件は複雑にして単純である。
  ずばり言えば、良いカーヴの条件とは日光が入らないことと、涼しいというだけでいい。

  何世紀にもわたり、カーヴに関するあまたの高説や説教が飛び交ってきた。
  どれも迷信の垢にまみれ、有無を言わさぬ厳密さで鎧を着けている。
  庫内温度、湿度、振動、光、異臭、これらの処方箋の厳密さは
  所詮、もったい付けに過ぎない。
  人の不安に付け込んでいるのだ。

  はっきり言えば、家庭用カーヴに関する限り、適正なワインカーヴはかくあるべし、
  という迷信めいた説教は誤りである。
マット・クレイマーによるコルク栓の検証
「ワインがわかる」(白水社)より
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